【日本のサメ神】古事記に登場するサメ

この投稿では日本の神話に登場するサメを紹介したいと思います。
今回は『古事記』に登場するサメたちのお話。

みなさんは『古事記』を知っていますか?
国語または歴史の授業でなんとなく出て来たような単語……。
私もちゃんと調べるまではそれくらいの認識でした。

古事記は日本の成り立ちを物語形式で語る日本最古の歴史書で、いろんなエピソードで構成されています。
そんな古事記に、サメがけっこう重要な役で出てくるのです。

普通のモブサメからヒロイン級のサメの女神まで……。
古事記に登場するサメたちはこちらです。

  • 因幡のサメ
  • 豊玉姫
  • 玉依姫
  • 海神
  • 佐比持神

彼らがどんなサメなのか、古事記でのストーリーもあわせて3つのエピソードで紹介したいと思います。

注)古事記は一人の人物に複数の名前がついていたり、それが読みにくい漢字だったりして全部説明するとややこしいので、読みやすい名前に統一しています。

EpisodeⅠ:因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)

「ウサギに騙されたサメ」

因幡の白兎という話をご存じでしょうか。
”名前は聞いてことあるけど内容は詳しく知らない”いう方は多いのではないでしょうか。
かく言う私もその一人……。

登場人物と大まかなストーリーを紹介します。

因幡の白兎

登場人物

  • ウサギ――白いウサギ。サメを騙す。
  • サメ――因幡のサメ。純真な心の持ち主のピュアシャーク。
  • オオクニヌシ――負傷したウサギを助ける、親切な神様。
  • ヤソガミ――オオクニヌシの兄弟。ウサギが受けた傷を悪化させる意地悪な神様。

ストーリー

昔々、稲羽(いなば)の淤岐ノ島(おきのしま)という孤島に白いウサギがいました。

淤岐ノ島

ウサギは何とかして陸へ行きたい……。
そこでピュアで純真なサメを利用することにしました。

ウサギはサメにこんな勝負を持ちかけます。
「ウサギとサメ、どっちの種族の数が多いか勝負するぴょん!」
そう言うとウサギはサメたちに、数を数えるからと島から陸まで並ぶように言いました。
それもありったけ。

ウサギの計画はこうでした。
勝負はあくまで建前。こうやってサメを陸まで並ばせておけば、自分はサメに飛び乗って陸へ行ける。
サメたちは純真だったので疑いもせず素直に並びました。

ウサギはまんまとサメを騙すことに成功し、数を数えるふりをしながらビョンビョンとサメたちの上を飛び乗って陸へ向かいます。

因幡の白兎


陸まであと一歩……というところでウサギはつい口走ってしまいました。

「本当は君たちを騙してたんだぴょ~ん(笑)」

それを聞いたサメは怒って、ウサギを捕らえ身ぐるみを剝ぎました。
ウサギはなんとか陸へたどり着くことができましたが、丸裸にされた体が痛みます。
さらに通りがかったヤソガミという神に間違った治療法を教えられ、体の痛みが増しついに泣き伏してしまいます。

そこへオオクニヌシという神がやって来て、正しい(?)治療法を教えてもらい、ウサギは無事元の白兎の姿を取り戻しました。

後に人々はこのウサギを『稲羽の白兎(因幡の白兎)』と呼ぶようになりました……。

おしまい

解説

鳥取県鳥取市の白兎海岸に、神話の舞台となった淤岐ノ島があります。
人間からすれば目と鼻の先ですが、ウサギにとってはけっこうな距離があるでしょう。
しかし、ここにサメが勢ぞろいしたと考えると壮観だったでしょうね。

引用:『鳥取市 白兎観光協会 スタッフブログ』 白兎海岸 淤岐ノ島
https://hakuto.tea-nifty.com/blog/okinosima.html

EpisodeⅡ:海幸山幸(うみさちやまさち)
―めぐりあい綿津見編―

「ようこそサメ宮殿、さよならサメ宮殿」

『海幸山幸』という話を知っていますか?

有名な昔話”浦島太郎”の元となった神話です。
海幸山幸の話はちょっと長いので前編後編で分けます。
登場人物と大まかなストーリーを紹介します。

海幸彦

登場人物

  • 山幸彦(ヤマサチビコ)――主人公。山での狩りが得意、でも海での漁は下手。
  • 海幸彦(ウミサチビコ)――山幸彦の兄。海での漁が得意、でも山での狩りは下手。
  • 豊玉姫(トヨタマビメ)――山幸彦に一目ぼれする。実はその正体は……。
  • 海神(ワタノカミ)――海の神様。豊玉姫のパパ。
  • シオツチノカミ――潮路を司る神。困っている山幸彦を助ける。
  • ヒトヒロワニ――全長1.8mくらいのサメ。山幸彦が陸へ帰るとき乗り物に。
  • ――3年間釣り針が喉に刺さったままだったちょっとかわいそうな鯛。

ストーリー

昔々、山幸彦海幸彦という兄弟がおりました。
兄の海幸彦は名前のとおり海での漁が得意で、弟の山幸彦は山での狩りが得意でした。

ある日、弟の山幸彦が互いの獲物を取る道具を交換してみようと提案します。
兄は断りますがあまりにしつこいのでとうとう根負けし、道具を交換して海幸彦は山へ狩りに、山幸彦は海へ漁に出ました。
山幸彦はさっそく兄の釣り竿を使って魚釣りを始めますが――。

――当然、両者とも慣れない道具を使って狩りも漁もうまくいくはずはなく、結果は散々たるものでした。
兄は互いの道具を返そうと言います。しかし山幸彦の様子がおかしい……。

――山幸彦は兄の大切な釣り道具の釣り針を海でなくしていたのです。

山幸彦は必死に謝りますが、道具を強引に交換させた上、獲物はとれず、しまいには大事な釣り針もなくした――そんな弟を兄は許しませんでした。

山幸彦は途方に暮れて海辺で泣いていると、シオツチノカミという潮路の神様が現れて、小舟を作ってあげるから、それに乗って海の宮殿に行ってみるといいとアドバイスされました。

竜宮城

山幸彦はさっそく小舟に乗り海の宮殿へ行きます。

そこで海の女神、豊玉姫と出会いました。

海で暮らしていた豊玉姫にとって、山幸彦の姿は”いと麗しき人”に見えたようで一目惚れします。
パパである海神に相談し、山幸彦を盛大にもてなして婚礼の儀式を行い夫婦となりました。
二人は仲睦まじく暮らし、3年の月日が経ち――。

――山幸彦はボソリとため息をつきます。それを聞いた豊玉姫は心配になり海神のパパに相談します。

海神が山幸彦にため息の理由を聞きました。
山幸彦は兄の釣り針をなくした経緯を話すと、海神は魚たちを呼び寄せ釣り針が刺さった魚はいないか尋ねました。

そこに食欲不振の鯛が現れました。喉に山幸彦がなくした釣り針が刺さっていたのです。
海神は鯛から釣り針を取って、きれいに洗い山幸彦に渡しました。

そして――海神は山幸彦が兄の海幸彦に釣り針を返すとき、積年の恨みを晴らせと呪いのかけ方を教え、加えて2つの宝具を渡しました。

――『塩盈珠(シオミツタマ)』 相手を溺れさせる玉。
――『塩乾珠(シオヒルタマ)』 溺れた相手を助ける玉。

海神は山幸彦が陸へ戻れるよう手配します。
乗り物はヒトヒロワニというサメ(おそらく全長1.8mくらい)にお願いしました。

こうして山幸彦は、無事兄の釣り針を見つけ出しサメに乗って陸へ帰ることができました。

山幸彦は乗せてくれたサメに、お礼にと紐刀をサメの首にかけてあげます。
後にこのサメは小刀を持つサメ神、『佐比持神(サヒモチノカミ)』と呼ばれるようになりました――。

――陸へ戻った山幸彦は、海神から教えてもらった呪いのかけ方と渡された2つの宝貝を駆使し、兄の海幸彦をコテンパンにして家来にします……。

つづく

解説

弟の兄への仕打ちは現代からの感覚からすると、えっ?となりますよね。
これは日本という国がどのようにしてまとめられていったのかを暗喩しているという説があります。

また、このエピソードにはヒトヒロワニというサメが登場しました。
漢字で書くと一尋和邇。
尋とは日本の古い長さの単位で、一尋約1.8mだそうです。

宮崎県宮崎市田野にある『鰐塚山(わにつかやま)』は、このサメの墓が祭ってあるとされています。
登山ルートがあり、車で頂上に行くこともできます。

――あと、ヒトヒロワニ以外にも既にサメが登場しています。
それは後編で……。

引用『みやざきの神話・伝説・伝承 鰐塚山』
https://www.miyazaki-archive.jp/d-museum/shinwa/details/view/3015

EpisodeⅢ:続・海幸山幸(うみさちやまさち)
―BEYOND THE SPECIES編―

「奥様はサメ!」

前回で無事、兄と和解(?)した山幸彦。
そこへある人物が山幸彦に会いに来ます……。
海幸山幸後編です。

登場人物

  • 山幸彦(ヤマサチビコ)――主人公。
  • 豊玉姫(トヨタマビメ)――ある目的のため山幸彦に会いに来る。実はその正体は……。
  • 玉依姫(タマヨリビメ)――豊玉姫の妹。
  • 天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命(あまつひこひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと)――山幸彦と豊玉姫の息子。長いのでナギサくんで。

ストーリー

山幸彦は兄を従えた後――。
――彼の元に一人の女性が現れました。山幸彦の妻、豊玉姫でした。
なんでも山幸彦の子供を身ごもっているとのこと。

海中で出産するわけにはいかないと考え、陸へ上がって山幸彦の元へやって来たのです。
豊玉姫は出産直前でした。

山幸彦は大急ぎで海辺の波限(なぎさ)に産屋を建てようとしました。
骨組みを作ってから屋根には鵜の羽(鵜は安産の鳥と言われています)を敷いていきます。
しかし産屋が完成する前に豊玉姫は産気づいてしまいます。

仕方ないので、豊玉姫は未完成の産屋で出産することにしました。
このとき山幸彦にお願いします。
自分たち海の種族は、出産の際”本来の姿”に戻る。
だから出産中は絶対に覗かないで欲しい――と。

いざ出産が始まると、山幸彦は中がどうなっているのか気になります。
豊玉姫から絶対に覗かないで欲しいと言われていましたが、山幸彦はとうとう産屋の中を覗いてしまいます。
そこで見たものは――

――超巨大なサメでした。豊玉姫の正体はサメだったのです。

メガロドン

豊玉姫は自分の本来の姿を見られたので、恥ずかしく思いました。
出産を終えると、豊玉姫は子供を置いて海の世界へ通じる道を閉じ帰ってしまいました。

子供は産屋の屋根が未完成のまま生まれたということで、天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命(あまつひこひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと)と名付けられました。

その後――。

豊玉姫は山幸彦が約束を破ったことを恨めしく思いながらも、夫への恋しい思いに耐え切れませんでした。
そこで子供の養育という名目で妹の玉依姫を送り、山幸彦に歌を伝えました。

「赤玉は 緒さへ光れど 白玉の 君が装し 貴くありけり」
(赤い玉は通された紐さえ輝くほどだけど、白い真珠のようなあなたの姿はそれにもまして貴いのです)

玉依姫から言づけられた歌に、山幸彦は歌で答えます。

「沖つ鳥 鴨著く島に 我が率寝し 妹は忘れじ 世のことごとに」
(沖をゆく鴨の鳴く島で、私が添い寝した愛しい妻のことは忘れない。いつまでも)

……。
…………。
………………。

――時は経ち、山幸彦と豊玉姫の息子ナギサくんは、自分の育ての親であり叔母でもある玉依姫と結婚し、4人の逆サメクォーターをもうけたそうです。

おしまい

解説

後編のエピソードの肝は、豊玉姫がサメだったということ。しかもかなりの巨大ザメだったようです。

日本の代表的な歴史書の神話に登場するヒロインが――サメの女神

『ランドシャーク』というサメが陸を歩くサメ映画がありますが、日本人は既に古代においてサメは陸を歩くという発想に至っていたようです。だって古事記にそう書いてあるんだもの……

日本版最古のランドシャーク、それが豊玉姫と玉依姫のサメ女神。
彼女らの父親の海神もきっとサメ神だったのでしょう。

日本人がトンデモ設定のサメ映画をなぜかすんなり受け入れてしまうのは、既に1300年前の古代においてその下地ができていたから、なのかも知れません。

ところで、ナギサくんは玉依姫の正体を知っていたのでしょうか。
豊玉姫と玉依姫は姉妹なので当然玉依姫もサメのはずですが、豊玉姫は本来の姿を隠していたので仕方なかったとしても、ナギサくんは妻の正体に気づかなかったのでしょうか。
豊玉姫の言動からすると、玉依姫も出産する際は本来のサメの姿になるはず。しかも姉のときとは違い、4人も生んでいます。
山幸彦が自分の苦い経験から、ちゃんとした産屋を建て息子のナギサくんには絶対覗かないよう毎回言い聞かせたのか、ナギサくんが玉依姫のお願いをきちんと聞くサメゆずりのピュアで純真な子だったのか、それとも玉依姫が本来の姿を見られても全然ヘーキな大雑把な性格だったのか……。
古事記にはナギサくんと玉依姫に関するエピソードがほとんどないので想像を膨らませるしかありません。

しかし、ナギサくんは自分の育ての親でもある叔母と結婚しているのです。かなりの胸熱展開のドラマがあったのではないでしょうか……。

海幸山幸の所縁の伝承地は、宮崎県宮崎市青島にあります。

引用:『みやざきの神話と伝承101 55海幸彦と山幸彦』
https://www.pref.miyazaki.lg.jp/contents/org/chiiki/seikatu/miyazaki101/shinwa_densho/055.html

古事記を初めて読むならコレ

日本創世の神話を描いた古事記。
日本人なら一度は読んでおいた方がいいでしょう。

古事記に関する本は数多くありますが、できれば漫画版か小・中学生向けの本をオススメします。
なぜならナギサくんのように名前がほぼ寿限無の登場人物がこれでもかというくらい出てくるからです。

私はこの手のジャンルの本を読む場合、下手に分厚くて内容が詳細な本を買うよりも、読解力のない私でもあらすじがざっくりわかるような本を読むようにしています。

オススメはこうの史代氏の『ぼおるぺん古事記』

内容は今のところ古事記の神代編のみですが非常に読みやすいです。
漫画形式で漢字は全てフリガナ付き。意味のわかりにくいであろう言い回しには補足が書いてあります。

また古事記の登場人物は非常に多く、その数は軽く200人は超えており一人一人把握するのは至難ですが、この漫画は著者が登場人物を全員キャラづけした上でかき分けており、しかも4ページにまたがる系譜図も入れてあるので、私にはとても分かりやすかったです。

古事記を初めて読む人にはうってつけだと思います。

『ぼおるぺん古事記 一 天の巻』 こうの史代 平凡社 2012

『ぼおるぺん古事記 二 地の巻』 こうの史代 平凡社 2012

『ぼおるぺん古事記 三 海の巻』 こうの史代 平凡社 2013

ちなみにタイトルに”ぼおるぺん”と書かれてあるだけに、全編ボールペンで書かれています。

著者のこうの史代氏はで数々の漫画賞を受賞している有名漫画家です。
代表作『夕凪の街 桜の国』『この世界の片隅に』はドラマ・映画化しています。
『この世界の片隅に』の劇場アニメは夏の時期、各地の映画館でリバイバル上映されています。

著者の漫画の作風は、ほんわかした絵柄ですが、読者を油断させたところでスパっと居合切りをしてくるストーリー展開と、予想の斜め上のアイデア、入念に練られた物語設定も相まって、何度読み返しても飽きの来ないのが特徴です。

私の好きな漫画家の一人です。

まとめ

古事記に登場するサメは以上です。
いかがでしたでしょうか。
日本人は太古の昔からサメをリスペクトしていました。
これを機にサメについて知りたいと思う方増えれば幸いです。

日本には古事記以外にもサメにまつわる伝承が数多くありますので、次回もこの調子で紹介していきたいと思います。

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