【COLUMN】サメの被害にあわないためには
最初に、高橋和希さんへご冥福をお祈りいたします。
今回のコラムでは、最近ニュースで話題になった有名漫画家の海難事故と、日本におけるサメによる襲撃および対策について紹介します。
今回のコラムの目次
1.有名漫画家が死亡!死因はサメによる襲撃?
先日沖縄で”ある事故”が起こりました。
あまりにショッキングな内容だっただめ、全国的にも大きな話題になっています。
某有名漫画家が遺体で見つかったのです。
場所は沖縄県名護市安和(あわ)の沖合で、名護海上保安署によれば沖合300メートルで遺体で発見され、その後死亡が確認されました。身元調査により、亡くなった人の身元が判明しました。その方は超有名人だったのです。昭和後期~平成生まれの男性であればまず知っているであろう有名漫画の作者……。
亡くなったのは少年向け漫画雑誌『ジャンプ』で『遊戯王』の作者で有名な、高橋和希氏でした。
遊戯王といえば、1990年代からジャンプで連載が開始された漫画です。初期は主人公が悪人を相手取り様々なゲームを繰り広げる内容でしたが、その中で「マジック&ウィザーズ」と呼ばれるカードバトルの回が特に好評で、大人気となりました。
アニメ化もされており、シリーズ物として何度か放送されています。ちょうど今年の4月から新シリーズが放映されていたところでした。
また、カードバトルは「デュエルモンスターズ」として名を変えて実際に商品化もされ、世界的に大ヒット、一大ブームとなりました。今も高い人気を誇っていて、「世界一販売枚数の多いトレーディングカードゲーム」としてギネス認定されています。熱心なカードのコレクターもいて、一部のレアカードについては数百万円単位で売買されるということも……。
もはや遊戯王は一つの漫画という枠組みを超えて、一大ジャンルを築いたといってもいいでしょう。
そこへ飛び込んできたのが、高橋和希氏が亡くなったというニュースでした。このショッキングな内容は大きな話題となり、各メディアは今回の事件を取り上げ、全国放送になりました。そしてもう一つ。このニュースに付随する形でもう一つ話題になったこと……。
高橋和希氏の遺体には”サメと思しき海洋生物による傷”があったのです。発見当初、死因がサメの襲撃によるものなのかわかっていませんでした。しかし各メディアのタイトルに”サメによるものと思しき傷”と発表していたこともあって、ネットニュースのコメント欄を見ると、サメに襲われたのではないか?等憶測が流れているようにみられました。
2.犯人はサメではなかった
その後の調査で、高橋和希氏の直接の死因がわかりました。
結論から言うと、サメの襲撃によるものではなく溺死でした。
高橋和希氏は一人で沖縄へ訪れており、遺体はシュノーケル器具を着用していたことから、単独でシュノーケル中に溺れてしまった可能性が高いようです。
そして遺体にあった傷は、亡くなった後にサメ等の海洋生物が噛みついてできたものと発表されました。
名護海上保安署による死因の発表がされるまで、サメによる襲撃ではないかと不安がるコメントが多く見られましたが、今回の事件はサメが犯人ではなかったようです。
3.過去にも似たような事故。日本におけるサメ被害の実態
沖縄の海では過去に似たような海難事故が起こっているようです。海での事故で溺死し、その後サメに噛まれたという事例です。
沖縄の海には人間を襲う危険性のあるサメNo.2・3、イタチザメ・オオメジロザメが生息しています。
イタチザメ
「何でも食べる、強い顎を持つサメ」
人間を襲う危険性のあるサメNo.2。
好奇心旺盛で”ヒレの生えたゴミ箱”と呼ばれるほど悪食。固い甲羅を持つウミガメも噛み砕いて食べる。英語名は「タイガーシャーク」と呼ばれ、体に虎の模様を思わせる縞々がある。
オオメジロザメ
「攻撃的で強い顎を持ち、高い適応力を持つサメ」
人間を襲う危険性のあるサメNo.3。
海・汽水域・河川でも生息可能。沖縄では小さな個体は川にも侵入してくる。
気性の荒い牡牛に例えて、英語では「ブルシャーク」と呼ばれる。
これだけ見ると、サメは非常に危険な生物と思われるかもしれませんが、サメ全体からすればこういった人間に対し攻撃的なサメは少数派であり、実際にサメが人間を死傷させる例は非常に稀です。
具体的なデータを元にサメによる襲撃を受ける確率を見ていきたいと思います。
まず、次ようなデータ(アメリカ等のデータ)があります。
『人間の各種死因ごとの死亡率』
心臓病 | 1/5人 |
インフルエンザおよびその合併症 | 1/70人 |
交通事故 | 1/100人 |
雷による感電死 | 1/80,000人 |
電車の事故 | 1/150,0000人 |
サメによる死亡事故 | 1/3,000,000人 |
こちらはアメリカ・欧米諸国での統計となります。サメによって死亡する確率は非常に低く雷が落ちて死ぬ確率より低いと紹介されていました。
『World's Deadliest Animals』(2014)
また、マイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏が自身のブログで発表した『World's Deadliest Animals』(2014)という、”世界で人間が1年の間に何の動物により何人殺されたか”を示す資料があります。
それによると、
蚊 | 725,000人 |
人間 | 475,000人 |
蛇 | 50,000人 |
犬 | 25,000人 |
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ワニ | 1000人 |
カバ | 500人 |
ゾウ | 100人 |
ライオン | 100人 |
オオカミ | 10人 |
サメ | 10人 |
となっています。このデータによると世界でのサメによる死亡事故は毎年発生していますが、他の生物と比較すると決して突出しているわけではないことがわかります。
それから、海洋国家と呼ばれた日本においても、サメの負傷事故は年に1回あるかないかです。死亡事故についてはほとんど起きていません。次はそれを裏付ける資料を紹介します。
『International Shark Attack File』
フロリダ自然博物館がネット上で公開している、インターナショナル・シャーク・アタック・ファイル(International Shark Attack File)と呼ばれる国際的なサメ被害のデータベースがありますが、1580年から現在にいたるまでの”Confirmed Unprovoked Shark Attacks”(人間がサメに対し挑発行為をしていないのにも関わらず、サメに襲われた件数)のデータによれば、
アメリカ | 1563件 |
オーストラリア | 682件 |
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日本 | 15件 |
となっています。
これは統計開始の1580年から現在にいたるまでの件数となっています。もちろん、これにカウントされていない事例もあるでしょうが、データから判断すれば、日本におけるサメの襲撃は稀と考えていいでしょう。
また、これまで日本で起きたサメによる事故から、遊泳禁止場所が増やされるなど対策がされてきたことで、サメによる襲撃事故はますます少なくなっています。
4.サメに襲われないためには?もし襲撃されたときは?
多くのサメが危険とは言えませんが、いざサメに出会ってしまった時、そのサメが人を襲う危険のあるサメかそうでないか瞬時に判断することは難しいものがあります。
そのため、きちんと対策をしてから海に出るようにしましょう。
サメに出会わないための対策
- サメの出没海域で泳がない
事前に泳ぐ海域の情報を調べ、特にホホジロザメ・イタチザメ・オオメジロザメが出没する海域では泳がないようにする。初めて泳ぐ海域では、できれば経験豊富なダイバーにガイドしてもらう。 - 一人で泳がない
サメは岸から離れたところで泳ぐ、単独で行動している相手を狙いやすい。 - 早朝や夜は泳がない
夜~早朝にかけて活動が活発になるサメが多い。 - 濁ったところでは泳がない
濁った場所はサメにとっては攻撃するのに有利。 - 傷があるなら泳がない
サメは血や体液の臭いを感知できる。 - キラキラした格好で泳がない
キラキラした水着やアクセサリーは、サメにとって獲物である魚のウロコに見えることがある。
サメに出会ったら?
- 経験者の指示に従う
経験のあるダイビング・ガイドの指示に従う。 - 近づかない
珍しくサメに出会えたからといって安易に近づかない。 - いたずらをしない
大人しいサメでも、刺激を与えるようないたずらをすれば思わぬ反撃を受けることがある。 - バシャバシャ音を立てない
サメは水しぶきに向かう習性がある。 - 速やかに船または陸へ
刺激を与えず速やかに船・陸へ上がる。
サメが攻撃してきたら?
- サメの弱点を攻撃する
サメの急所である目と鼻を攻撃する。 - サメに対し怯まない
できるだけ大勢で、水中で大声を上げる等して威嚇し、追い払う。
サメは強力な顎を持ち、人間に対し攻撃的な種類も存在しますが、サメ全体からすればかなりの少数派です。しかも、人間を”狙って”攻撃しているわけではなく、見間違いをしたか、または自分たちのテリトリーに入って来たメニューの一つくらい程度の認識です。
仮にサメと出くわしたとしても、約束事を守れば助かる可能性は大いにあります。
また、シャークダイビングというサメと一緒にダイビングするというツアーもありますが、きちんと安全対策をした上で、現地ダイビング・ガイドの指示にしっかり従いましょう。
まとめ
日本ではサメに襲われること自体が稀です。しっかりと約束事を守れば、よほどのことがない限りサメに襲撃されることはないでしょう。
海で泳ぐときは、彼らサメのテリトリーにこちらが入るという認識を持ち、しっかりと安全対策をして臨みましょう。
高橋和希さんのご冥福を祈りつつ、皆さまのサメによる事故が起きないことを願っています。
記:ヨワタリJAWS
参考文献
■書籍
『世界の美しいサメ図鑑』 仲谷一宏/監修 宝島社 2015
『世界サメ図鑑』 スティーブ・パーカー/著 仲谷一宏/日本語版監修 ネコ・パブリッシング 2010
『さめ先生が教える サメのひみつ10』 仲谷一宏/著 ブックマン 2016
■WEB
『フロリダ自然博物館 International Shark Attack File』
(https://www.floridamuseum.ufl.edu/shark-attacks/)
『ビル・ゲイツ氏のブログ(GatesNotes) The deadliest animal in the world 2014』
(https://www.gatesnotes.com/Health/Most-Lethal-Animal-Mosquito-Week)